電通のクリエーティブ・ディレクター/コピーライターの磯島拓矢氏の『言葉の技術 』(朝日新聞出版)を読了。一見「言葉の技術」というと、コピーライティングにおける手順を書いている本に思えるのですが、中身の方向性は違うように思いました。コピーライターという職業以外にも「考えを深める」というのはとても大切なこと。プランナーやディレクターにも活かせる一冊だと感じます。
コピーライターへの偏見
コピーライターというと「一言」で商品の深みを与える仕事だと感じています。一方で、CMや広告ポスターなどあらゆるところで見かける「コピー」ですが、中には「こんなの誰でも……」と思えてしまうようなシンプルすぎて拍子抜けするようなものもありますよね。ただ、少ない言葉の中を何度も読み返すと、様々な「メッセージ」が見えてきます。磯島拓矢著「言葉の技術」を読むと「コピーライター」がどのようなプロセスで言葉を生み出し、アウトプットしているのかが具体的に見えてきた気がします。
思考の深める「4つの扉」
- 商品・企業
- ターゲット
- 競合
- 社会・時代
磯島拓矢氏は、電通のコピーライターを養成する際に説明される「4つの扉」を著書で紹介していました。4つの扉とは「商品・企業」「ターゲット」「競合」「社会・時代」のこと。この方法を使うことで、1つの物事を様々な視点で見つめることができると言います。
商品を伝えるための「4つの言葉」
4つの扉は書籍を読んでいただくとして、本を読んで噛み砕いて考案した「4つの言葉」を紹介します。
- 商品を見て思った第一印象の言葉
- 商品をあの人にオススメする時に出る言葉
- 商品を比較して説明する言葉
- 商品を現在に位置付ける言葉
板チョコを「4つの言葉」に照らし合わせて考えると様々なワードが浮かんでくると思います。もしかすると「甘い」「美味しい」かもしれませんし、ダイエット前の人には「ダイエット前にひとかけらのチョコを食べるとやせる」かもしれない。もう少し違う見方をすれば「シュークリームより美味しい」であったり「震災時の非常食として役立つ」と言えるかもしれません。
考えを深めるためには、様々なアイディアを出し切り、そしてまた絞り込むという繰り返しだと感じます。
思考をさらに深めるメソッド
書籍では、思考をさらに深めるには大きく2つのメソッドがあると書かれていました。
エピソードと普遍の往復
具体的な芸能人の名前を出して商品を販売することがありますが、極端な話をすれば、その芸能人を知らなければ商品は売れないことになります。具体的な名前ではなく「芸能人」というくくりにしてしまえば、より広い人に訴えることができますが、訴求力は弱くなってしまいます。
エピソードを普遍的に、普遍的なものをエピソードに落とし込むという作業は、思考を深めるのに大切なプロセスなのかもしれません。
言葉でしたいことを考える
- 宣言する
- 提案する
- 挑発する
- 描写する
書籍では「4つの扉」と似た部分もあるがと前置きがありましたが、コピーで何をしたいのかを考えると良いと書かれていました。
コピーでは、大きく4つのしたいこと「宣言」「提案」「挑発」「描写」があるそうです。違った表現にしてみると、宣言は「企業マインドを消費者に伝える」、提案は「具体的な相手にオススメする」、挑発は「競合の痛いところを突く」、描写は「伝えたい人になりかわる」といったところでしょうか。
どれが正しいとかはなく、商品のスケールや具体性、伝える範囲などで、4つの「言葉でしたいこと」から型を選ぶと良いようです。
コミュニケーションは受け手が主体
コピーライターも、他の職業もそうですが、忘れてしまいがちなのが「コミュニケーション」に求めることです。書籍に書かれた「コミュニケーションは受け手が主体」という言葉が印象的でした。
コミュニケーションは「発信者」が主体となりがちですが、本来は受け手がどう捉えるかによって内容が変化してしまうもの。つまり「受け手が主体」ということ。コミュニケーションで、もっとも大切なのは「伝わった・伝わってない」ではなく「良い関係性になれるか」が大切と述べていました。
磯島拓矢著「言葉の技術」
電通のクリエーティブ・ディレクター/コピーライターの磯島拓矢氏の『言葉の技術 』(朝日新聞出版)は、いわゆるテクニック本ではなく、思考プロセスを具体例に沿って解説する書籍。コピーライターのみならず、ディレクター/プランナーなどあらゆる職種の人が「思考を深める」ために必要なメソッドが詰まった書籍だと思います。